動物病院開業成功のための3つのポイント
1.はじめに
都内動物病院T先生の考える集患
集患、増患対策(お客様を集め、増やすための方策)に特効薬はありません。
毎日の診療活動、その他の院内活動が積み重なって、少しずつ患者さんを集め、増やしていくのです。
しかし、そこにはやはりポイントやコツがあります。そのポイントやコツをご説明します。
都内○○動物病院
T先生は集患対策について次のようにいっています。
お客様は、「高度で適切で快適で便利な医療サービスを安定的に受けたい」(サービスの中身)と考えている。
それに応えなければならない。つまり、サービスの内容を常に高めて行かなければならない。動物病院は、それを目指さなければならない。
そして、同時に自院のサービスの中身を積極的に知らせる必要がある。中身があるだけでは駄目。また、広告宣伝は、技術的な面が強いので、その効果を研究して行う必要がある。
集患するには、自院のサービスに濃い内容(中身)を持ち、その内容を告知していかなければならない。
その告知には、テクニックを駆使する。
「濃い内容」とは、サービスを「高度」「適切」「快適」「便利」「安定的」にする。 「テクニックを駆使」するとは、「院長は広告塔」であると意識し、「広告メディアの選択」をし、口コミを上手く使っていくことである、と。
2.濃い内容のサービスとは何か
T先生が考える濃い内容のサービスとは、
「高度で適切で快適で便利な医療サービスを安定的に提供すること。」だといっている。
高度
T先生は、次のように言う。
「医療技術は日進月歩。診療所といえどもその技術を出していかなければ患者たちに見放されてゆく。今後もその傾向は強くなると思う。新聞や雑誌、特にインターネットは人々にあらゆる知識を制限無く与えている。一部の人達は、その中でプロ顔負けの知識を持って獣医師に接してくる。獣医師はその道のプロとして、それにも応じなければならない。しかし、獣医師1人での対応は、やはり限界がある。そこを心得えて医療サービスを提供しなければならない。私はその点について、自分ができる限りの範囲で医療サービスを提供し、足りない部分は、他人の力を借りれば良いと考えている。」
T先生は以上のように述べている。
そして、具体的には、他の動物病院との適切な連携をとり、体制が整えば、自院で常勤またはパートの獣医師を雇うことが必要だろういっている。
「自分自身は、一分野で得意分野を持ち、あとは他の力を借りればいい。
そうして質の高さ(高度)を確保してゆけば良いと思う。」と。
T先生は、合理的な考えを持っています。獣医師のプライドとか面子などを捨て、いわば飼い主側に視点を置いた企業的なサービス提供を目指しています。
動物病院は、大学病病院の補助施設ではなく、1つの完結した医療サービス施設である。ハードルは高いが目指すべき1つのゴールであると。ただ、すべての動物病院がこの方向を目指す必要はないと思う。できるだけ質の高さを追求すべきではあるが、自分でできる範囲で求めれば良いであろうといっています。
設備や機器については、諸条件を考えて入れれば良いといっています。無理をしないことだといっています。
適切
T先生はいいます。
「飼い主さんに対するサービスは、常に何が適切か考える必要がある。その態度をなくしたら駄目だと思う。何が適切かを追求する姿勢が飼い主さん達に伝わり自院の評価が高くなっていくと考える。」
先生が、いくつか大事だと考えている点を挙げましょう。
まず、緊急時は対応を素早くすること。日頃から考えられる緊急事態を想定し、シミュレーションをしておくこが必要だといっている。医療施設である以上、事故や不都合があってはいけない。
次に、適切な紹介を心がけるべきだといっている。
紹介先は他施設ではあるが自分が紹介した以上は、プロとして責任を持たなければならない。そのため日頃から他の医療施設の情報に注意しておくことを勧めている。
それと人脈を創っておくことを強調している。
たしかに、人脈創りは一番大事なことである。人脈があれば、たいていの問題が解決可能になる。
医療サービスの「高度化」「適切さ」「安定化」などは、地域差はあるものの、人脈があればそれほど困難ではない。
各種の専門医を人脈に持っていれば、診療の高度化は達成できる。
また、自院の有効利用(コンビニ的にフルタイム、年中無休で診療する方向)が図れるのである。「適切さ」についても、各種の専門家を人脈に持っていれば、やはりその実現は可能でである。
人脈創りは日々心がけるべきである。
快適
T先生が言う。
「快適さは、人的快適さ、物的空間的快適さ、時間的快適さに分けて追求している。
『人的快適さ』は、日頃のスタッフ教育に尽きる。絶えず切磋琢磨しなければならない。
『物的快適さ』は、ゆったりとして、きれいで、居心地がいい環境を創ることです。贅沢はいらない。」
T先生の病院は、何時行っても清潔感が感じられます。
シンプルな作りで、一見すると物足りない感じですが、スタッフの対応が清清しく、言葉使いもやさしく丁寧です。
引き締まったプロフェッショナルを感じさせてくれます。
数年前から予約制を取っているので長い待ち時間はなく、この「快適さ」の追求は、日々の小さい改善の積み重ねの結果で、短期間でこうはできません。
常に患者サービスを目指す努力が必要だということです。
便利
T先生は言う。
「私のところでは、診療時間はできるだけ長く、そして、休診日がないようにしている。それが、患者さんに都合がいいと考えている。究極は、患者さんが行きたい時に行けばすぐ診てくれる動物病院を目指したい。」
先生のところでは、現在午前9時〜午後8時まで休みなしで毎日診療しています。
土曜日、日曜日をフルで診ているので、かなりの集患効果がありるようです。それに対応して、予約制をとっています。
当然予約制はメリット、デメリットがあります。
デメリットは、予約管理の煩雑さそれに伴うコストアップです。しかし、先生はトータルではメリットが大きいといいます。
予約制は、今後サービス向上の大きな柱になると考えられます。
動物病院のサービス体制は、1つの大きな流れとして、コンビニ化(毎日何時でも開いている)が進んでいくと考えられます。
これを目指すことは動物病院の経営者にとって大変厳しいことです。
しかし、医療サービスが本来衣食住に対するサービスよりあらゆる面で要求度が高いので、やむをえない流れです。
この方向を目指すには、まさに人脈造りが不可欠です。
安定的
T先生が言います。
「いくら高度で適切で快適で便利な医療サービスをしても、それが継続的で安定的でなければ、飼い主さんは納得しない。それがひいては、来院数の増減につながる。そのため当たり前のことだが、毎日の積み重ねを大事にしなければならない。これはスタッフ全員でやらなければならない。」
確かに、動物病院は医療サービスを中心商品として提供する商売である。
商売である以上、そのサービス(商品)を継続的・安定的に提供するのは商売の第一歩である。このことを忘れてはならないのです。
T先生のところでは、毎週スタッフミーティングを開き、常に問題点を見つけサービスの向上に努めています。
ミーティングは短い時間で要点のみを検討しています。
(裏話を一言。各スタッフのこのミーティングの活動が給与、賞与の査定に反映されるそうです。)
3.告知(広告宣伝)はテクニックを駆使
T先生は言います。
「広告宣伝は、自院を知ってもらうために大事な作業です。医療サービスの質を高めることは当然だが、知らせること(広告宣伝)も同じぐらい大事。広告宣伝はテクニックを使い、合理的に効果的に行うべき。」
「広告宣伝は非常に大切である」
「院長は広告塔である」
「新患は、大切な口コミ媒体」
「女性を大事にする」
「院長は広告塔である」
この意味は、①院長の飼い主に対する対応がその動物病院のサービスの中心だということ。
そして、医療サービスは、人的サービスだということ。
したがって、サービスの良い悪いの評価は、院長の対応如何にかかってくる。
院長の対応が良ければ評価が高くなり、その結果口コミを中心に自院のプラスの評判が高くなっていく(良い認知が広がる)ということである。端的に言うと、院長の行動=その動物病院の評価だということである。
②いい意味でも悪い意味でも動物病院は人気商売だということ。
③動物病院は、個人業(開業当初は特に)だということ。
院長は、飼い主にサービスを提供するとき、「広告塔」の意味を良く考えて、行動しなければならない。
利用するメディアは絞る。
(媒体、簡単に言えば広告手段のこと)
①ホームページ
中身を練って必ずやるべきである。
②新聞折り込みチラシ
その診療圏への挨拶状だから、1度は実施する
③電話帖
余力ができたらでよい。
④電柱看板
自院の周辺のみ。これはやらなくてもよい
⑤駅看板
お金に余裕があればやる。但し、掲示場所を厳選する
⑥電車・バス広告
やらなくてもよい。
⑦ポスティング
集患の即効性あり。ポスティンググッズを厳選する。
⑧内覧会
できればやるべきである。但し,事前の告知を十分にする。
⑨フリーペーパー
これは必須です。
⑩その他
各種のメディアがあるので、その効果を見極め利用する。
口コミの重要性
上記の広告宣伝のメディアは、あくまでも補助と考えるべき。広告宣伝の基本は、口コミである。この口コミをどう広げ良くしていくかが集患の最大のポイントである。口コミを研究し利用することである。
①開業前の口コミをどう作るか。院長の経歴や院内の設備・機器を告知し、住民に自院に対する期待感を持たせる。
②開業当初の口コミをどう作るか。とにかく飼い主さんの話しを丁寧に聞き、自院に対する信頼感、安心感を与える。自院に中年女性を取りこむことを1番の課題にする。
最後に
T先生は、かなり緻密に集患戦術を練り、集患していました。
しかし、それは、決して収益確保のためではなく、とにかく「動物を診て治したい」という現れだと理解しています。
やはり患者さんに来ていただいての病院です。その点が集患の原点です。その点を忘れないことです
4.動物病院
〜開業から現在〜 T先生の実例
T先生は、約10年前に都内で犬、猫を中心に診療する動物病院を開院しました。病院の規模は20坪、商業地と住宅地が混在した地域にあります。前面道路は生活道路になっており、10m程離れた場所にバス停があります。
開院は、春でした。人員は、院長と診療助手の合計2名でスタートしました。水曜日のみが休診で、診療時間は、午前8時30分〜12時、午後3時30分〜8時です。
開院初日は、犬が1匹に猫が1匹でした。その後1日平均3匹程の来院の日が2ヶ月ほど続きました。収入は、初月約40万円、2ヶ月目約55万円、3カ月目約60万円でした。
開院当初実施した広告宣伝は、①診療圏内に新聞折込チラシ2万部、②電話帳広告、③開院の挨拶状(B5用紙1枚)を院内(院内パンフの簡略版)に常置しました。
三ヶ月を過ぎても来院数が伸びないので、危機感を抱き、再度新聞折込チラシ2万部を診療圏内巻きました。それから1日の来院数が平均5匹程度になりました。収入は、4ヶ月目約70万円、5ヶ月目約90万円、6ヶ月目約95万円、7ヶ月目約100万円となりました。その後も約3年程は、1ヶ月の平均収入は、約150万円程度でした。
1ヶ月150万円の収入では、病院を維持できるものの、自分の手取り収入は、それほどではありません。来院数は、微増していたのでそれほど危機感は感じないでいました。
それが5年目のの春ごろから来院数がドンドン伸び始め、5年目のの1日平均来院数が18匹、6年目が23匹、7年目26匹、8年目が30匹、9年目が28匹でした。現在は、来院数は安定しているようです。
病院の売上も、それに応じて伸びていきました。昨年は、6,000万円を超えた売上になりました。そのため経営も安定し、今ではアルバイトの先生を募集しています(昨年より募集しているそうですが中々見つからないそうです。募集条件も悪くないのですが)。
T先生の病院の集患状況を開院当初から見てくると、立ち上がりが悪かったと判断できます。そして、その理由を考えると、広告宣伝の弱さが最大の原因と考えられます。
T先生の開院時の広告宣伝は、前述した通り、新聞折込チラシ2万枚、電話帳広告、簡略版院内パンフの3つです。
その中でも、実効的なのは、新聞折込チラシです。なぜなら、電話帳広告は、認知率では、イマイチですし、第一電話帳が出たのが約1年後です。これでは即効的で実効性のある広告とはいえません。院内パンフにしても認知率はほとんど期待できません。単なる口コミの補完材料です。やはり、開院時の広告宣伝は、集中的かつ効果的に行わなければなりません。
ですから広告宣伝方法もこの点を踏まえたものを取り入れるべきです。これが開院時の広告宣伝のポイントです。
このポイントを押さえなければ、効果的な集患は望めません。
T先生がいうには、開業後3年間の売上数字は低調だったが、その後は順調に集患および売上が伸びているそうです。
特に、ここ数年は、かなり経営的に余裕があると言っています(その言葉の通り、昨年は、自社ビル建築計画のため当社も動きました。ビル建築は、今後の課題です)。
開院5年目からどんどん集患が伸びた理由をT先生に聞くと、その理由ははっきりしないと言います。ただ、日々の診療を丁寧にこなし、新患のお客様には、特に丁寧に対応したと言っています。そのためか、紹介や口コミで来る来院者がかなり多いと言っています。(紹介、口コミでの新患は、月平均30人前後。)
紹介、口コミが増えるような対策を立てるのは開院後重要な集患、増患対策ですです。これが開院後の集患のポイントです。
3年前からホームページをアップし、その効果も少しずつ出ていると言っています。ただ、電話帳広告の効果は、あまりよくわからないといっています。診療を日曜日もやっているので、その効果は大きいようです。土日の来院は、平日の1.5倍(平均)ぐらいになるそうです。夜も8時過ぎまで診療しています。
開院時数年は集患に苦労したT先生ですが、ここ数年の病院経営は、かなりの安定度です。そのため将来の展開も考え始めているのです。これも来院数が多く安定し、売上も順調に伸びているからこそなのです。
病院に限らず、すべて商売は、お客あっての存在なのです。
ですから、集患、増患は、動物病院開業にとり、何においてもまず第一に力を入れるべきところなのです。